壁で仕切られた室内空間と、そこに醸成される光と影の表情に関心を持ち、建築をテーマとして約35年間描き続けている。最近はスピード感のあるラフな線が加わって、より軽妙で透明感のある作風に変わってきている。好んで使われるのは、灰色がかった青系の寒色だ。そこに差し色として褐色やレモン色、オレンジ色などの明るい色が効果的に配され、複数の色面の響き合いが目に心地よい。画中の壁面のひとつひとつは、カンヴァスと相似形をなしている。井上の仕事は、平面であるカンヴァス上に、面の集積によって三次元空間を構成し、そこに光を投じ、空気を流し、人の姿を描くこと無く生を息づかせる試みである。古くて新しい絵画の命題の追求がここにある。